サブスクで中東(主にトルコ)のポピュラー音楽を聴くブログ

サブスクで聴けるようになった膨大な各国音源。そして機械翻訳で容易に知ることができるようになったアーティストの背景。個人的にはまっている中東系(トルコ中心)を中心に書き連ねます。ただしトルコ語、アラビア語、ヘブライ語など全くわからないので、誤解は多々あると思いますがご容赦を。

Nem Kaldi ?/ Parka

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ロックの人は長髪が多いのはトルコも同じ

 Cem Karacaとシングルをリリースした後、MoğollarはCemを置いて渡仏してしまい(もともとMoğollarはフランスで72年にアルバム”Danses Et Rythmes De La Turquie D'Hier À Aujourd'hui”=現在”Anadolu Pop"としてサブスクにも上がっているものをリリースし、賞をとるなど評価されていた。Moğollarの話はまたどこかでしましょう)、残された彼は新たにDervişanを結成する。

 DervişanのベースOğuz Durukan とキーボードUğur Dikmenは、ドラマーのDurul Genceと一緒にAsia Minor Missionというバンドをやっていて、YouTubeに北欧オスロでのライブ音源が残されている(レコードはたぶん出していない。それと、後にフランスでアルバムを残したプログレバンドのAsia Minorとはおそらく無関係です)。著名なトルコ人ジャズドラマーOkay Temizがこの頃から北欧で活動していたので、関係があったかもしれない。

 そんなことで、特にオルガン・シンセが加わったことにより、一気にプログレ要素が強くなった訳だが、この頃のトルコのポピュラー音楽シーンはまだ、シングルを出さずにアルバムを出すという風習がなかったようで、ここで紹介するアルバムNem Kaldi ?もまたシングルのコンピレーションである。

 

 そのため、例えばタイトル曲の"Nem Kaldi"においても、シングルに許された曲の時間(4分10秒)の中でイントロリフ→歌Aメロ→一瞬ドラムレスになってサズの調べ→歌Bメロ→一瞬オルガンソロ→以上を繰り返した後短いシンセソロとかなりてんこ盛りに詰め込まれており、しかもバックのドラムやベースがかなり自由に暴れていることが聴き取れる。わたしはこれこそがアナドル・ロックの醍醐味であると声を大にして言いたい。

 惜しむらくは元々がシングルでモノラル録音であり、またCemの朗々としたオペラティックな歌が全面に出ているので(もちろんそれも魅力なのだが)、バックの演奏は耳立たないことだろう。

 ちなみに"Nem Kaldi"はハルクの弾き語り歌手Aşık Mahzuni Şerifの曲であり、彼の歌うテイクはこちら。

 たぶんCem Karacaより先にポップシンガーのGülden Karaböcek(この人についてはまた触れることがあるだろう)がリリースした"Nem Kaldi"はこちら。

 他にもSelda Bağcan(元々アメリカ風のフォーク歌手だったが、アナドル・ロックに接近し、また政治的にもCemと近く何度か投獄された)がかつてのCemのパートナーであったKardaslarと録音したテイク(だいぶファンクになっている)や、同じくアナドル・ロックの重要アーティストであるEdip Akbayramのテイクなど、いろんな"Nem Kaldi"を聴き比べることが容易にできるのもサブスクの長所である。

  

 "Nem Kaldi"に収められなかったDervişanとのシングルは、続くコンピレーションアルバムのParkaに収録された(以前録音されたApaşlar、Kardaşlar、Moğollarとの曲も若干入っている)

 "Tamirci Çırağı"は、サブスクに存在するCemの膨大なコンピレーションにもたいてい入っている、全体的に激情的なこのアルバムの中でも屈指の熱い曲である。自動車整備工の男が、高級車を修理しにやってきた身なりのいい姉ちゃんに一目惚れするも、声もかけられない、そんなしている内に工場長に、薄汚い作業服のくせに夢を見るな仕事しろと怒鳴られる・・・というプロレタリア文学である。彼の政治性については次回取り上げたい。

 以前よりもCemのオリジナル曲が増えており、キャッチーなイントロと熱く歌い上げる叙情性、バックのプログレッシブなアレンジも相まって、名作の名に恥じないアルバムである。彼のオリジナル曲に見られる節回しがどういった音楽的背景なのか、母親のアルメニア音楽と関係あるのか、いつか検証したいと思いつつまだ果たせていない。