サブスクで中東(主にトルコ)のポピュラー音楽を聴くブログ

サブスクで聴けるようになった膨大な各国音源。そして機械翻訳で容易に知ることができるようになったアーティストの背景。個人的にはまっている中東系(トルコ中心)を中心に書き連ねます。ただしトルコ語、アラビア語、ヘブライ語など全くわからないので、誤解は多々あると思いますがご容赦を。

はじめに〜トルコポピュラー音楽の大きな流れ

 最近SpotifyApple Music等の、音楽定額聴き放題(サブスクリプション)サービス(以下サブスクと呼ぶ)が普及しつつあるのはご存知の通りかと思うが、その膨大な音源の中で、今までごく一部のレコード屋でしか取り扱っていなかった(レゲエとかアフロビートなどメジャーなものは除く)非西欧圏のポピュラー音楽がすごい勢いで割合を占めつつあることに最近気づいた。

 

 気づいたきっかけは、もともとわたしはプログレ、サイケが好きで、そのつながりでアナドル・ロック(トルコで70年代にプログレ・サイケ・ファンク等の影響を受け、ロックと民族音楽を融合させた音楽)を聴き始めたとき、なにげにサブスクでそれらアーティストを検索したことだったと思う(だいたい2年ほど前)

 そして聴き出しているうちに、それらアーティストの70年代のシングル(アルバム化されていない・・・もともとトルコではアルバムリリースが一般化するのが70年代後半と遅く、それまではシングルが一般的であった)が、かたっぱしからサブスクでリリースされるのを目のあたりにしてきた。

 寝る前に居間で寝っ転がってスマホをいじっていると、毎週のように新しい音源を発見して、聴いては素晴らしさに感動し、ダウンロードしてクルマで翌日改めて聴く・・・といった感じで、どんどんスマホにお気に入りが増えていく。またサジェストしてくれるアーティストを知る。いちいちレコード屋に行かずとも、また買ってみて再生してみて外れだったと悔しい思いをすることもなく、知らない国の音楽体験が深まっていく、なんていい時代なんだと思うわけであります。

 

 そうしてひとつのアーティストの音源を深く知る一方、それらアーティストの経歴や人生、音楽的背景や政治的背景(中東の場合多くのアーティストは政治的背景と音楽が密接に関わっている)について日本語で書かれたものが(少なくともWeb上に)あまりにも少ないこともわかってきた。まあ今までニーズがなかったんだろう。

 なので、英語版Wikipedia、英語で書かれた紹介本(また紹介する)、トルコ語アラビア語ヘブライ語イスラエルは中東にくくるのか?という疑問があると思うけどそれについてもまた別途改めて)などのWikipediaから英語への機械翻訳、その他アーティストに関する記事の機械翻訳などなどの手段でそれらのアーティストの背景や歌詞を学ぶようになった。

 でもどうしても一人で読んでるだけだとちゃんと咀嚼できていない気がするし、またもっと詳しい人が日本にいて、間違いを指摘してくれることもあるかもしれないし、同好の方と知り合って楽しい会話ができるかもしれない。そう思い、こんなブログで、自分の理解の範疇を日本語に落とすことにしたい。

 

 ということで、このブログはあまり教科書的にならずに(というか教科書的に記述する能力はないんだけど)逐次話題性を追って書ければと思うのだが、最初なので少し概括的な記述をしてみたい。

 トルコのポピュラー音楽を1960年代頃から90年代頃の流れで10年程度ごとにざっくりと潮流をきりわけると以下のようになると思う(そっから後はあまり詳しくない)

※ちゃんとした文献としては、例えば「トルコ音楽の700年 オスマン帝国からイスタンブールの21世紀へ」(関口義人著、DU BOOKS 2016年)を読んでほしい。

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○サナート・・・この時期の代表的な歌手はトルコの美輪明宏ことZeki Müren(ゼキ・ミューレン)。元来はリズムも電化されていない正調の伝統音楽。80年代頃から(ポピュラー音楽としては)アラベスクに接近していき境界線が明確でなくなる。

○ハルク・・・おっさんが一人でサズ(弦楽器)を弾き語りして歌う、まあ言うたらブルースですわ。Âşık Veysel(アシュク・ヴェイセル)とか、頭にÂşıkのつく人はハルクの人

○欧米風ビートポップス・・・これの代表的存在はBarış Manço(バルシュ・マンチョ)さんでしょうな。Mançoさんもそうだったけど英米と同じくらいフランスのイエイエの影響も強かった(つまりあんまり熱くならない)

○アナドル・ロック・・・レッド・ツェッペリンジェスロ・タルに触れたトルコ人が、「こんなやり方でロックと民族音楽合体できるんだ!よし俺たちも合体!」ってんで、主にハルクとアート・ロックを合体させてつくった音楽。アーティストによって結構方向性が違うのが面白い。個人的には大好き。

○トルコ風ディスコポップス・・・もともとアナドル・ロックの頃からファンクとの折衷は進んでいたのだけれど(特にEdip akbayramやErsenにおいて)、70年代中頃からの世界的ディスコブームに乗っかって一斉に女性シンガーが花開いた。誰が一番有名かなあ。Ajda Pekkan、Füsun ÖnalやKaraböcek姉妹あたりが代表的かな。

○初期アラベスク・・・いくらOrhan Gencebay本人がアラベスクという呼称を嫌っていたとしても、彼がこのジャンルのオリジンであるという事実は変わらない。彼の目指していた音楽とは、サナートもハルクもロックもロマやクルド人の音楽もすべてが混ざりあった、トルコ統合の象徴ともいうべき音楽だったと思う。実際に、小節ごとにリード楽器が変わったりする、万華鏡のような構成が初期アラベスクの魅力だと思う。

○量産型アラベスク・・・初期アラベスクはGencebayの探求的な性格もあってキャッチーなメロディーが少ない、少し気難しい音楽に聴こえるところがあったが、これにナイ(笛)の親しみやすいメロディーを加えて一気に大衆化したのは何と言ってもIbrahim Tatlisesの功績が大きいだろう。80年代にはカセットテープの普及によって完全にトラック運転手の音楽になった量産型アラベスクだが、その後ダンス音楽との融合を果たし、今日でも女性シンガーを中心に歌い継がれる生きた音楽としての輝きを保っている(日本の演歌との大きな違い)

○打ち込み系アラベスク・・・Sibel CanやKibariye、Yıldız Tilbeらに代表されるアラベスクを打ち込みダンスミュージックにしたもの。トルコだけでなく東欧のTurbo Folkとも相互に影響を与えたり拡散したりして広まった。Ajda Pekkanも90年代以降はこっち。

 

  これ以外にも、普通のヨーロッパ風ポップス(Sezen Aksuとか)欧米風ロック(MFÖ、Tarkanなど)、フォーク(Ahmet Kaya、Bülent Ortaçgil等)等などはこのブログではあまり触れることがないと思うけど大きな地位を占めているし、また、特定の地域のマイノリティの音楽(クルドの音楽、黒海沿岸のホロン、スーフィーの音楽、…)がポピュラー音楽化しているケースも多い。

 

とまあ、概論はこれくらいにして(また書き足すかもしれない)、次回からは1アーティスト、レコード1枚にできるだけ絞ってつらつらと書いていきたい。